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宮崎地方裁判所 昭和53年(行ウ)1号 判決

原告

山内松子

右訴訟代理人

佐々木龍彦

被告

右代表者法務大臣

住栄作

右指定代理人

後藤伸一

外六名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一、二《省略》

三原告は昭和二〇年頃山口富士美と同棲し西郷村で事実上の婚姻関係に入り、昭和三〇年七月一五日頃これを解消したものであつて、遺族援護法二九条一項二号所定の軍人であつた原告の夫山内信郎が死亡した昭和一九年一〇月一〇日以後昭和二七年三月三一日以前に配偶者たる原告が届出をしないが、事実上婚姻関係と同様の事情に入つたものと推認することができ、この認定に反し、「原告は昭和二二年四月頃から昭和二七年三月頃まで訴外山口富士美方に女中として住み込んで働いていた。」旨の原告の主張に副う甲第八ないし第一〇号証、第一二、一三号証、乙第二〇ないし第二二号証の各記載の一部、証人川崎虎市、同吉田直、同中城博の証言の各一部は前掲各証拠に照らし遽かに措信し難く他に右認定を覆すに足る証拠がない。

したがつて、本件遺族年金裁定は、遺族援護法二九条二号、三一条五号に照らし、当初から遺族年金の支給を受けることができない原告に対しなされたものであるから、厚生大臣のなした本件遺族年金裁定取消処分は一応適法であつて、被告主張の抗弁は理由がある。

けだし、要件を欠く瑕疵ある授益的行政行為は法律による行政の原理ないし公益上の授権の限界に基づき原則としてこれを取消しうると解すべきである。

もつとも、瑕疵ある行政行為の取消が必然のものでないことは出訴期間徒過後、違法の負担的行政行為が存続されることからも明らかである。したがつて、違法な授益的行政行為を除去する行政庁の利益とこれの信頼保護という受益者の利益とを比較考量し後者が前者より大きい場合は取消ができないと考える。

四次に、原告主張の本件誤裁定届の偽造を前提として本件裁定取消処分の無効をいう原告主張の再抗弁(二)1、2につき検討するにそもそも誤裁定届の提出が年金裁定取消処分の要件であるといえないばかりか、〈中略〉本件誤裁定届、同事実婚証明書は客観的事実に合致したもので、かつ偽造文書ではなく、真正に作成されたものであることが明らかであつて、これが偽造であるとの原告主張の再抗弁事実は前掲措信できない乙第二〇ないし第二二号証のほか、これを認めるに足る的確な証拠がない。したがつて本件誤裁定届、同事実婚証明書が偽造であることを前提とする原告主張の再抗弁はその余の判断をするまでもなく失当である。

五以上のとおり、本件遺族年金裁定処分はその要件を欠く瑕疵ある授益的行政処分として原則としてこれを適法に取消しうるものであり、右裁定処分が昭和二九年六月一日になされ、同年一〇月七日本件裁定取消処分がなされたことは前示のとおり当事者間に争いがなくこれによるとその間には長年月の経過はないし、原告が年金の支給を受けたこともないのであつて、この外、原告が年金裁定処分を信頼して、これにより生活を変更、継続したものであるとの裁定処分取消を妨げる信頼保護などの事実はその主張も立証もないから、本件年金裁定取消処分は適法であつて、原告には年金受給権がないというべきである。

(吉川義春 有満俊昭 栃木力)

遺族年金、公務扶助料表〈省略〉

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